亜熱帯島嶼域における持続可能な水資源利用に資する地域特性を考慮した貯留水品質管理手法の構築

 

研究代表者:古里 栄一(埼玉大学大学院 理工学研究科)

共同研究者:廣瀬 孝(琉球大学 法文学部)

 

 

【平成28~29年度 共同利用・共同研究実績報告】

研究成果

 

 

【平成29年度の成果】

 平成29年度までの成果の概要は以下の通りであり,当初計画(表1参照)に基づいて実施された結果,計画時に想定された成果以上の結果を得ることができた.特に,研究対象,内容,メンバー,社会実装に向けて,以下の新たな様々な点が展開しつつある(写真1参照).I. 実施の経過に応じた,久米島町土地改良区や役場,沖縄県南部土木事務所や南部農林土木事務所等の意見・情報交換により,対象水域の増加や今後の官学連携の発展,II. 本研究に関心を持つ多様な組織・分野の研究者の参画(ベルリン工科大,プランデンブルグ工科大,ライブニッツ陸水水産研究所,北見工大,埼玉大,岐阜大,神戸大,島根大,鹿児島大),III. 廣瀬准教授との議論,現地調査に基づく,研究知見の発展(地学分野と水資源研究分野との融合による新規性かつ有用性のある新学術知見の展開) これらに基づき,後述するように,特に本研究目的達成にあたり重要となる地学・水資源双方の分野に学識経験を有する埼玉大学小口准教授の共同研究者としての追加申請を行う.

 

 

[B:久米島(儀間ダム等)での現地調査]
 久米島における複数水域での様々な現地調査を実施した.儀間ダム:2回(6,8月),山城池:5回(4月~9月)および,現地自動観測装置の水質連続観測(継続中), 力ンジンダム貯水池: 2回(6,8月),ヤンガー池(6月)での調査により,各水域の固有性と共通性が明らかになった(図1参照).更に,久米島の水環境に関する学識者(ホタル館館長,佐藤文保理学博士) との意見・情報交換を行い,力ンジンダム貯水池における外来種駆除による環境教育と水質保全,生態系保全のシナジー効果(産官学童団の連携)に関する学会発表も行った(応用生態工学会).

 

 


[C:亜熱帯地方島嶼域における貯留水品質確保手法の構築]
 当初計画で予定されていた,平成29 年度における成果として,儀間ダムの現地調査結果から,イニシャル・ランニングコストの双方が効率的な条件で設計・設置された気泡循環施設による貯留水品質保全効果(カビ臭抑制)が確認された.また,その結果に基づき社会実装に向けた施設設計・管理指針の学術知見構築の取組みを開始した.

[D:学会発表および社会実装への取組み]
 学会発表として,口頭発表8 件(土木学会,応用生態工学会),査読付き論文5 編(うち,国際学会2 編)を行った.また社会実装に関しては,写真1の様に沖縄県南部農林土木事務所(砂川勝彦所長)主催による勉強会が平成30年1/26 に実施され,本研究の成果を含めた講演が午後1 時から5 時までの4 時間行われた.参加者は主催者である沖縄県南部農林土木事務所8 名,同南部土木事務所2 名,内閣府沖縄総合事務局4 名,北部ダム統合管理事務所2 名,民間企業(環境コンサルタント2 社)5 名等を含む計44 名であった.特に島嶼関係者として,久米島以外の宮古島,慶良間諸島,南大東島の農林関係者も多数参加した.本研究の成果に基づき,久米島において山城池や他の複数水域での水資源開発施設の水質保全事業が,上述した内閣府や沖縄県,久米島町との共同プロジェクトとして進捗する予定である(詳細計画は後述).

 

【平成30年度の成果】
平成30 年度の成果は以下の通りである.
[B:久米島(儀間ダム等)での現地調査]
 儀間ダムをはじめとして,カンジンダム貯水池,山城池での現地調査を継続するとともに,その結果を解析して亜熱帯地方島嶼の貯水池の諸特性を考慮して,気泡循環対策による水質保全効果の評価を行い,亜熱帯島嶼特性に合致しつつ,かつ費用対効果が高い水質保全対策技術構築の基礎資料を構築した.現地調査は,主に水温成層が形成されるともに水質問題の発生する夏季を中心として実施した.調査内容は対象水域の水理水質特性や利水上の問題により異なるが,本研究目的を達成するための諸調査として,・水温鉛直分布測定による水理構造評価,・DOやpH 等の鉛直分布測定による生化学的諸過程のポテンシャル評価,・放線菌やカビ臭物質の直接分析による,貯留水品質の評価と対策手法の構築の基礎データ取得,を行った.

[C:亜熱帯地方島嶼域における貯留水品質確保手法の構築]
 本手法構築においては,貯水池流域の地質特性と,貯水池の水理水質特性との関係に十分留意する必要がある.本申請書で追加希望を行う,埼玉大学理工学研究科小口准教授との議論および考察検討を行った上で,地質特性を含めた貯水池の水理水質特性を考慮した,亜熱帯地方島嶼における貯留水品質管理手法として,・気泡循環施設の設計および管理指針,・浅い水域における高濃度酸素供給装置の浅い水域(ヤンガー池)に対する適用指針,流域の地学的特性(地質,地形等)に基づく,対策手法の適用設計および管理指針の構築を実施した.

[D:学会発表および社会実装への取組み]
 平成29 年度までと同様に,活発な学会発表および社会実装への取組みを行う.学会発表は,土木学会,応用生態工学会等で行った.また,社会実装については,直接的には研究対象である久米島の諸水資源施設における水質保全装置の管理・新設について本研究を通じて提言した.間接的には,久米島以外の沖縄地方の様々な水域に対して,本研究で得られた学術知見を実施設管理・設計や導入を通じて展開した.具体的には,今年度に連携関係を強化した沖縄県の水資源施設の諸管理者との共同事業として,久米島の諸水域における対策施設の運用方法構築,新規施設の導入に加え,沖縄本島の北部諸ダムや南大東島,宮古島等における水資源施設の貯留水品質管理施設の設計から管理の幅広い領域での連携(意見・情報交換,技術指導,実務への反映,共同研究等)を行った.

 


TOP