気候変動への適応策としての次世代交通基盤技術の導入可能性

 

研究代表者:飯田 晶子(東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻)

共同研究者:David Mason(東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻)

共同研究者:Erbai Matsutaro(Office of Climate Change, Republic of Palau)

共同研究者:廣瀬 孝(琉球大学法文学部)

 

【平成30年度 共同利用・共同研究実績報告】

研究成果

■ 研究概要
 本研究では,気候変動への適応策としての次世代交通基盤技術の導入可能性を検証するため,パラオ共和国を事例に,【1】都市化と気候リスクの関係性分析,【2】気候変動への適応策としての自立分散型都市モデルの構築,【3】自立分散型都市に移行するための次世代交通基盤技術の導入可能性の検討を行う。平成30年度は,以下に示す3回の現地調査を通じて特に【1】のテーマを中心に研究を進めた。

 

■ 現地調査
✓ パラオ共和国 平成30年8月13日~8月21日(飯田晶子) 8月13日~9月26日(David Mason)
 主な調査内容:都市住民へのアンケート調査(気候リスクの実態,科学技術の利用実態,居住選好)
✓ パラオ共和国 平成31年2月14日~3月04日(David Mason)
 主な調査内容:過去の渇水イベントの社会的影響に関する調査,研究成果の発表
✓ 長崎県五島市 平成31年3月12日~3月16日(飯田晶子・David Mason)
 主な調査内容:離島における電気自動車導入事例の視察・五島市の担当者へのインタビュー

 

■ 研究成果
【1】都市化と気候リスクの関係性分析:海水面上昇に伴う洪水リスク/干ばつによる渇水リスク
 パラオ共和国では,洪水・渇水をはじめとする気候リスクが大きな社会的課題となっている。それらは気候変動との関係で語られることが多い。しかし,本研究の成果からは,実際には気候変化の影響よりも,都市化という人為的影響の方がより大きいことが明らかとなった。具体的な結果は以下の通り。
 洪水リスクについては,まず,潮位データから過去30年間で10cmの海水面上昇が起きていることがわかった。次に,1938年・1983年・2014年の地図を用いて都市化の変遷を明らかにした。そして,以上のデータから各時代に高潮により影響を受ける建物割合を算出した結果,0.4%,8.1%,10.9%と都市化とともに高まっている一方で,海水面上昇の影響は1%以下であることがわかった。また,都市住民へのアンケート調査(N=121)の結果,都市部での人口増加を受け,州政府がマングローブを埋め立て貸し出している土地に暮らす農村出身の住民が,洪水の影響をより受けやすい状況に置かれていることがわかった。
 渇水リスクについては,まず,過去の降雨データから過去に発生した干ばつを抽出した。次に,各干ばつにおける,社会的インパクトと都市人口との関係を分析するため,新聞記事から社会的インパクトに関する記述を抜き出した(結果については現在分析中) 。また,先に述べたアンケート調査では,渇水リスクに関しては出身地や居住地による差が見られなかった。
 以上の結果からは,将来的な気候変動リスクの低減のためには,都市化を制御し,人為的影響を最小化させることが重要であることが示された。

 

【2】気候変動への適応策としての自立分散型都市モデルの構築:都市住民の居住選好意向
 次年度に向けた先行調査として,都市住民へのアンケート調査を通じて,都市住民の居住選好意向を把握した。その結果,第一に,約6割の都市住民が可能であれば都市から農村へ戻りたいと考えていること,第二に,病院や学校などの施設不足の問題だけでなく,移動費用(ガソリン購入費用)の負担が,都市から農村へ戻ることを妨げていることがわかった。

 

【3】自立分散型都市に移行するための次世代交通基盤技術の導入可能性の検証:先進事例の調査
 離島地域での次世代交通導入の先進事例である長崎県五島市の現地視察を行い,市の政策担当者,レンタカー事業者,ツアー業者へヒアリングを行い,約10年間の取り組みによる成果と課題を把握した。その結果,観光者と帰省者を対象としたレンタカー事業者を中心に約140台の電気自動車の導入実績がある一方で,充電施設の維持管理コストやバッテリーの劣化の課題が上がっていることがわかった。また,住民への電気自動車の普及や再生可能エネルギーとの連携についても今後の課題であることが把握できた。

 


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