離島航空輸送の経済価値の計測とその価値構成に関する研究

研究代表者:小熊 仁(高崎経済大学 地域政策学部)

共同研究者:西藤 真一(島根県立大学 総合政策学部)

共同研究者:福田 晴仁(西南学院大学 商学部)

【2019年度 共同利用・共同研究実績報告】

研究成果

離島にとって航空輸送は離島と本土間の社会経済的格差を緩和し、日常生活の維持や離島の振興に必要不可欠な交通手段である。しかし、近年は人口減少や代替交通手段との競合、ならびに航空会社の機材・従業員不足によって、苦しい運営を余儀なくされている。従来、航空輸送は利用者数や路線収益等の運航実績を基準に評価が下されてきた。その一方で、航空輸送ではサービスの存在から様々な価値が派生することが認められているため、これらの非市場財的価値を含めた経済価値の評価は今後の路線運営に向けた具体的指針の提示に結びつく。 本研究は、沖縄県の離島航空輸送における経済価値とその価値構成を明らかにし、被験者の各種属性と価値評価に関する因果関係を分析する。具体的には、「沖縄県離島航空路線確保維持計画事業」の支援を受ける3路線のうち、離島住民の利用と離島外住民の利用が括抗する宮古~多良間線を対象に「仮想市場法(Contingent Valuation Method: CVM)」に基づいてサービスに対する支払い意思(Willingness to Pay: WTP)を導出し、サービスにかかる経済価値の評価と価値構成、およびWTPと各属性の因果関係について考察することが目的である。 調査分析にさしあたり、分析対象路線の現状と動向を把握するため、沖縄県庁、琉球エアコミューター、多良間村役場、多良間空港管理事務所、多良間海運に対しヒアリング調査を行った。ここでは宮古~多良間線を含む沖縄離島路線の運航状況や離島路線の維持をめぐる県の政策等について調査を試みた。その後、宮古~多良間線の利用者と平良~前泊(普天間)航路の利用者を対象に多良間空港ターミナルビルおよび前泊港においてアンケートを配布し、 WTPの推計と価値構成の計測、およびWTPと各種属性の因果関係について検討した。アンケートは郵送で回収され、配布枚数300部のうち宮古~多良間線にかかるWTPの計測に有効な回答は86部であった(有効回答率28.7%)。 分析の結果、同路線では1ヶ月あたり平均514円のWTPが示された。他方、属性別では、年間利用回数10回以上利用者のWTPが最も高く1カ月平均741円、続いて、島内居住者663円/年、女性617円/年の順になった。続いてWTPの価値構成を把握するため、 「階層化意思決定法(Analytic Hierarchy Process: AHP)」により①直接利用価値、 ②オプション価値、 ③代位価値、 ④遺贈価値、 ⑤存在価値という5つの価値に対する重要度の平均からWTPの構成を計測したところ(C.I.≦0.15のサンプルのみを対象)、直接利用価値=185.04円、オプション価値=92.52円、代位価値=92.52円、遺贈価値=113.08円、存在価値=30.84円となり、利用者は航空サービスの「利用」と将来への「維持」を重視していることがわかった。なお、 WTPとの各属性の関係では、 10%有意で50代1名増加ごとにWTPが2.39円増えることが判明し、出張等で島外を往来する世代ほどWTPが高くなる可能性があるということがわかった。 以上の結果から宮古~多良間線が利用者に及ぼす経済価値を算出したところ、単年度の便益は2億4,831万円(直接利用価値:8,939万円・非市場財的価値:1億5,892万円)に上り、国・沖縄県の離島航空路補助と租税公課の減免措置の合計額(年間2億円)以上の経済価値が生み出されていることが判明した。


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