島嶼地域におけるソバの持続的な生産と地域振興に関する研究

 

研究代表者:坂井 教郎(鹿児島大学・農水産獣医学域農学系)

共同研究者:内藤 重之(琉球大学・農学部) 

 

【平成29年度 共同利用・共同研究実績報告】

研究成果

 島嶼の農業は,市場遠隔,土地の狭小性,気象災害の多発などの困難な条件下にあり,自律的な展開が見られない場合も多い。そうした中で,ソバの6次産業化(蕎麦店の経営や加工品の製造など)や島外販売に取組み,ソバの生産が定着し,一定の地域振興に繋がっている島が存在する。
 本研究では,そうしたソバの生産に取り組む長崎県対馬,鹿児島県種子島,沖縄県大宜味村,宮古島を対象に,ソバ生産と加工・販売の実態を把握し,島嶼の不利な条件下においてソバの生産が定着した経緯と特徴について考察した。結果は以下の3点に整理できる。

 

①蕎麦店経営による輸送の不利性の回避
 島嶼の不利性の1つは,高輸送コストによる販売の競争力の弱さであるが,島内で加工・消費されればその不利性を回避できる。また収益性の低いソバ生産の付加価値化を図ることもできる。いずれの島においても島内産ソバを原料とする蕎麦店があり,そこでの販売は重要な役割を占める。ただし客層は各島で異なる。観光客や島内移住者が中心の店(大宜味村・宮古島)と地元客中心の店(対馬)がある。これは南西諸島では日本蕎麦を食する文化がないため,地元住民にとって蕎麦は高価だとして敬遠されがちであるが,対馬では古くから蕎麦が食文化として定着していることによるものと思われる。

 

②端境期出荷と品種差別化による島外へのソバ(玄ソバ・むき実・ソバ粉)販売
 島内のマーケットは必ずしも大きくはなく,地域振興・農業振興に繋がるためには,島外へソバ(玄ソバ・むき実・ソバ粉)を販売する必要がある。これは大宜味村を除く各産地が取り組んでいる。この場合の島嶼の不利性の回避のための特徴は,温暖な気候を活かした本土産の端境期出荷(種子島・宮古島)と製品差別化(対馬)に大別できる。前者は,高単価は期待できないが,早期の国産新そばとして販売するために,本土の製粉業者に玄ソバで出荷する。後者は,交雑の進んだ対馬の伝統品種を純系化し,「対州そば」という特殊なソバとして島外の有名蕎麦店へ販売している。ただしこの品種が本土で栽培されるとブランド維持ができなくなるため,玄ソバではなく,一定の技術や品質管理が必要なむき実やソバ粉で販売している。これまでは品質管理等に課題があったが,2018年4月に「対州そば」が地理的表示産品として登録・保護されることになり,玄ソバのままでの島外販売が検討されている。

 

③土地利用面でのソバの栽培面積拡大の条件
 ソバの生産は,蕎麦屋の経営等による付加価値販売とのセットで収益性が確保されるが,南西諸島ではソバ生産のみの収益性はサトウキビに劣る。したがって,宮古島のように特別な付加価値のない玄ソバの島外販売や,大宜味村のようにソバの生産主体と蕎麦店の経営主体の異なる場合,サトウキビが栽培される地域でのソバの面積拡大は容易ではない。そのため宮古島では,サトウキビ収穫後から植付けまでの間に期間借地(地代なし)で栽培され,条件不利地が広がる大宜味村では,サトウキビの栽培ができない最劣等地に地代なしでソバが栽培される。このように島嶼における付加価値化を図らないソバ栽培は,休閑地の存在が前提になる。しかし逆に言えば生産条件の悪い島ほど栽培拡大の可能性があると言える。

 


TOP