島嶼国・地域特有の、経済の非効率性に関する研究

 

研究代表者:梅村 哲夫(名古屋大学大学院 国際開発研究科)

共同研究者:越野 泰成(琉球大学法文学部)

共同研究者:獺口 浩一(琉球大学法文学部)

 

【平成28~29年度 共同利用・共同研究実績報告】

研究成果

本研究は、島嶼国・地域特有の経済非効率性に関する研究で、太平洋島嶼国と沖縄県を対象とした。
採択後の活動は次の通りである。


・平成29年2月20目、午前11時から午後1時まで打合せ巷実施。
日時:2017年(平成29年)2月20日(月) 1100~1330
場所:琉球大学法文学部518会議室
参加者:越野教授、獺口准教授、藤田所長、梅村(名大)
研究打合せ内容
(1)研究内容について(研究コンセプトの整理)
 ・島嶼国・地域は歴史的に脆弱・不利といわれてきたが、エビデンスペースで検証する。
 ・島嶼国・地域のレジリエンスについて検討する(自然環境、経済、社会、他の側面)
 ・島嶼国・地域のサステナビリティーについて検討する。
 ・研究成果を島嶼国並びに沖縄県の発展に還元する。
(2)研究手順
 ・沖縄県を対象に、越野・瀬口先生が多面的に課題抽出をおこなう。
 ・切り口を吟味し、島嶼国を対象に比較分析を行う。
 ・調査対象島嶼国は、経済・人口規模、歴史的背景、地理的条件を踏まえ決める。
(3)役割分担
 越野教授:行政制度のコストについて取り組む
  費用の三分類:効率性、平等性、維持コストを検討する。
  経済社会的課題の解決に、制度を設けるか、制度なしで課題解決できるかを吟味する。
  経済振興策・開発援助と行政制度の関係を検討する。
  行政制度のコストの側面から、社会のサステナビリティー(SGDs)を検討する。
 獺口教授:財政政策の分析を担当する。
  沖縄県の財政政策の効率性について検証する。
 梅村:研究課題に即した比較の視点を整理し、また既存研究の調査を実施する。
  海外調査を実施する。(候補はフィジー共和国だが、変更もあり得る)


琉球大学国際沖縄研究所共同研究合報告会への出席と報告
平成29年(2017年)6月10日(土)
参加者:梅村、獺口教授
報告内容:研究計画の紹介


平成29年度 トンガ王国及びフィジー共和国にて現地調査を実施
平成29年度現地調査(トンガ)

日時:平成29年8月13日~ 18日(トンガ)
①トンガ政府観光省:Mr. Sione Finau Moala Mafi (Acting CEO) 等とトンガの観光開発に関する研究協力体制の構築に関する会議
②トンガ中央銀行:Dr. Sione Ngongo Kioa(総裁)、Dr. Jessie Cocker(副総裁)とトンガ経済の直面する諸課題に関する学術協議
③トンガ商工会議所:Ms. Aloma Johansson(副所長)等と観光業を含むトンガの商工業の課題の聴取
④トンガ政府統計局:Dr. Viliami Fifita, Government(統計政策担当)と経済・社会統計の作成と問題点に関する現地事情聴取
⑤JICAトンガ支所:吉浦伸二支所長、岩田章一企画調査員との日本政府の対トンガ開発援助政策に関する意見交換と研究教育ニーズの把握
⑥トンガの地域開発・観光資源管理運営調査(Mapu’a Vaea Blowholes(ブローホール)、Tsunami Rock(津波岩)、3 Head Coconut、Mu’a Archaeological Site, Langi(ムアの遺跡/王家の墓ランギ)、Makaunga 漁村、Ha’amonga Trilithon (ハモンガ・アマウイ遺跡))
⑦FIJI AIRWAYS地域マネージャーMr. Robert Roundsによるトンガ政府観光省での南太平洋州インバウンドの傾向と課題に関する意見交換
⑧Dr. Aisake Valu Eke, Member of Parliament(国会議員、前財務大臣)とのトンガ経済の振興を目指した政策協議、および学術研究協力協議
⑨前観光省大臣とのトンガ観光開発に関する意見交換、現地大学教授(retired)等との経済産業開発、人材育成に関する意見交換


平成29年度現地調査(フィジー)
日時:平成29年度8月19日~21日
①海外直接投資(FDI)による地域観光開発(デナラウ地区)の視察、島嶼観光開発現場を訪問視察 (Bounty Island)
②フィジ一政府観光省 Mr. Rovarovaivalu Vesikula (Research & Insights Officer) とフィジ一政府の観光開発計画及び統計等資料提供の依頼
③国際観光拠点であるナンディーの街の生鮮食料市場及び商業の視察


(現地調査の成果)
 トンガにおける現地調査の中でトンガ中央銀行総裁の話では、トンガ経済は海外からの出稼労働者の送金に依存しているため、可処分所得と消費支出は増え、CPIも上昇傾向にあるが、国内投資が低迷していることが指摘された。これは島嶼国特有の現象である。可処分所得の上昇を通じた生活水準の向上は社会開発の面では短期的には望ましいが、国内産業は観光業以外有望でなく、国内経済が国外経済に強く依存しているため、ある意味で不安定な状況から抜け出せないでいることが、改めて確認された。


※経済の非効率性に関しては、国内経済が海外経済に強く依存しているので、自律的経済成長の要素はほぼ見られず、海外出稼労働者の送金への依存も高まり、TURAB経済構造が今まで以上に強まっていることが改めて検証された。同時に、国内経済は海外経済の動向に大きく影響を受けるため、国内での投資は極めて低調で、GDPの大部分は国内消費で構成されている状況にあるようである。これらについては、中長期時系列分析から明らかにしたい。

 フィジーにおける現地調査では、観光拠点であるナンディ一地域に限られたが、オーストラリア、ニュージーランドの家族連れ観光客が目立ち、避寒地としての役割が進んでいることがわかった。また、台風のたびに冠水して通行止めが発生する当該地域の道路の拡張工事や迂回路の建設が進んでおり(観光インフラ整備)、この地域のインフラ整備は以前にも増して強化拡充されてきている。また、2017年秋からフィジーと日本を結ぶ直行便が再び開設される予定となっており、フィジー経済は一層、国際観光へ依存する状況となっている。


平成29年度現地調査(パラオ)
日時:平成30年3月11日から17日(グアム経由)
①1JICAパラオ支所:宮田信昭(JICAパラオ支所長)と開発課題に関する意見交換をおこなった。最近は中国の勢力が拡大しており、その影響が懸念されることが述べられた。
②パラオ財務省歳入課税庁(Ms. Gloria Mengloi) :パラオにおける外資導入のインセンティブに関しては、マルキョク州(首都)から2マイル以内に事業を開設する、2~3年以内、法人税は免税となる。これは、旧首都のあるコロール州に集中している経済を新首都へ移転するための方策である。
 観光政策に関しては、2017年11月から、パスポートに「自然を守る」という誓約書を印字し、旅行者にサインさせることを導入した。また、2018年1月1日導入の出国税($100)は、航空運賃に入れこんでいることで、割高感を隠すことになっている。これらの使途については、一般的に資源保全に充てられることとなっている。
③パラオ観光局:Managing Director Ms. Stephanie B. Nakamura, Strategic Planning Manager Mr. John Thanner, Marketing & Planning Manager Ms. Andrea V. Naivana.
グループインタビューの結果をまとめると次の通りである。
 ・High Value Tourismとはどう理解しているのか?

  観光客数ではなく、観光客の質を追求する観光政策、観光客の質は、高い支出額だけではない。Responsible Tourism, Authenticity, Respect local, Nature, Culture, History, Heritageが大事であるが、16州それぞれが観光資源だと考えている。
  金曜日にNight Market (17:00-19:00) @Culture centerをするので、見てもらいたい。
 ・観光局として力を入れていることは?
  PR特にソーシャル・メディア、FB, Trip Advisor, Googleの活用である。
 ・観光庁との役割分担は?
  観光庁は規制・監督官庁であり、PVAはプロモーションが主体である。
 ・観光統計庁について
  入国時の税関申告書の裏のアンケートは、観光客には書いてもらっているが、現在は制度上、集計していない。
  2014年に実施した出国時調査(Exit survey)を、再度実施する計画がある
 ・出国税100ドル/人の使い道は?
  ロックアイランドの保全とインフラ整備及び、16州に配分している
 ・観光客数のコントロールの方法は?
  チャーターフライトを抑制して入国観光客数を管理している。
 ・次の観光資源開発は?
 バベルダオブ島を周回するマラソン、バード・ウオチング、現地生産(村)の土産物開発やそのコンペの充実。
 ・キャリング・キャパシティーについて
  年間20万人が上限だと思う。その根拠の1つは宿泊施設の容量である。
④Koror State Conservation and Law Enforcement(コロール州環境保全法執行局):KSG Rangers; Malakal, Koror/ Mr. Colin Joseph:ロックアイランドのツアーガイドは現在、400人程度。パラオ人、中国人、日本人などあり、1年間有効、申請費用は$35。
ガイドの資格取得には、講習を受ける必要があること、違法な観光行為があれば、ガイドが処罰を受けることとなっている。
ジエリーフィッシュレークは、干ばつや観光客の日焼け止めによる水質汚染の影響により、現在、通常種4匹、ゴールデン種2匹の計6匹しか確認されていない。入域料を値上げしたが、観光客数は増加しており、主要アクティピティーはダイビング、シュノーケリングで、日本人、中国人、台湾人、韓国人が主である。
※注:ジエリーフィッシュの数は、従来から開放している湖についての数であり、それ以外に一般開放していない湖が存在する。
⑤パラオ政府労働局:Mr. Sylverius Tellei, Chief, Division of Labor:パラオにおける外国人労働者は7,000人程度(総人口約2.2万人)で、21歳から60歳が主、56%がフィリピン人で全労働者の17%を占める。その他は、中国人、バングラデシュ人、インド人で多くは建設業に従事している。労働者としての権利は、Palau National Code (PNC) にすべての規則が載っている。最低賃金については、かつてはパラオ人が高かったが、今は同額で$2.25/h (Sep.31, 2017)、$3.5/h (Oct.1, 2017) となった。送金の現状は、海外居住のパラオ人は自国へはあまり送金しない。他方、フィリピン人やバングラデシュ人は母国へ送金するので、これに課税する予定である。
⑥パラオ政府移民局:Mr. Flavin Misech, Chief, Division of Immigration:・外国人は建設業従事者が多い。現在、”Island Clean Business” (違法労働の取締)を実施中である。
⑦パラオ政府観光省:Bureau of Tourism (BoT), Malakal, Koror/ Director Buveau Anastacio, Senior Compliance Specialist:BoTが考えるHigh Value Tourismとは、ブータンのような観光形態で、エコ・ツーリズム、文化自然を守る、少インパクト、数より質を求める観光形態である。PVAとの違いに基づく観光局の役目は、(1) レギュレーションの作成/パラオ観光振興のフレームワーク(Policy Framework, 2017-2021)を作っていること、(2)STANDARD(サービスの基準)の作成(輸送、観光産業)、“DO&Don’t”(パラオ内で観光客がやっていいことと悪い事)の作成である。喫緊の課題は、観光セクターにおける漏出(リーケージ)の問題解決であり、省庁横断的なタスクフォースを作っている。
⑧パラオ投資委員会(Foreign Investment Board (FIB)):外人による投資は基本的に、次(政府の契約、NPO活動、大学)を除き許可制である。外国投資の分類は次の3つである。
 (1)パラオ人だけができるもの・・・ツアーガイド等
 (2)パラオ人パートナーが必要なもの・・・ベーカリ一、ギフトショップなど
 (3)外国人だけでできるもの(パラオ人不要)ホテルの場合5millionUSD以上、誰でも雇用可能、5mmilionUDS以下の投資では、従業員の27%のパラオ人を雇用する義務がある。ただし、観光業の場合、旅行者にパラオの文化を訴求するため、パラオ人を積極的に雇用する傾向にある。かつて5スターホテルだけを許可の対象にしようとしたが、国会が反対した。
まだ議論が続いており、緩和される可能性もある。


(現地調査の成果)
 パラオ政府は観光客のハイエンド化(高所得層の取り込み)を従来から観光振興の方針として掲げており、昨年12月まで出国時に、出国税US$20とグリーン税US$30の計US$50が必要であったが、2018年1月1日よりこれら廃止され、Pristine Paradise Environmental Fee (PPEF) =通称「ブリスティン・パラダイス環境税JとしてUS$100が航空運賃に上乗せして徴収されることとなった。調査では観光関連の政府収入や実質的に値上げされた出国税に関するパラオ政府の意図及び使途、観光振興やインフラ整備に与える経済社会的影響があるいていどわかった。また、労働市場に関しては、外国人労働者に強く依存している経済であり、グローパリゼーション下では、これは小島嶼国の宿命であると考えることも考えられる。

 


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