アジア太平洋島嶼国・地域のボーダーに関する比較研究:沖縄の離島と南洋諸島を中心に

 

研究代表者:古川 浩司(中京大学・法学部)

共同研究者:星野 英一(琉球大学・法文学部総合社会システム学科政治・国際関係専攻)

共同研究者:岩下 明裕(北海道大学・スラブ・ユーラシア研究センター/九州大学・アジア太平洋未来研究センター)
共同研究者:檀上 弘文(中京大学・法学部)

共同研究者:花松 泰倫(九州大学・持続可能な社会のための決断科学センター)
共同研究者:Edward Boyle(九州大学・法学研究院)

 

【平成30年度 共同利用・共同研究実績報告】

研究成果

 本年度実施した内容は,本共同研究に係る研究会(2018年5月18日:九州大学博多駅オフィス,2019年2月1日:九州大学博多駅オフィス),沖縄県八重山地域での現地調査(2018年8月28-31日・石垣市役所・竹富町役場・与那国町役場・波照間島内の石碑など),パラオでの現地調査(2018年12月4-8日:ペリリュー州立博物館,海上法令執行部オフィス,在パラオ日本国大使館など)などである。
 本研究では①国際関係,②国境問題,③領海警備,④観光,⑤歴史の記憶,⑥開発の観点から,本年度は八重山諸島とパラオのボーダーに関する比較研究を行った。その結果は以下の通りである。
 第一の国際関係に関しては,台湾・中国・フィリピンと接している八重山諸島も米国・日本・フィリピン・インドネシア・オセアニア諸国と接しているパラオも海域の要衝(砦かつゲートウェイ)である点で共通している。また,八重山諸島もパラオもかつて日本と米国の支配下にあった点及び現在の外交・安全保障を米国に依存している点でも共通性を見出すことができた。
 第二の国境問題に関しては,八重山諸島には尖閣諸島問題及びそれに伴う漁業問題があるのに対し,パラオには領土問題は存在しないがインドネシアとフィリピンとの間でEEZ境界画定のための交渉が続いていることが分かった。また,石垣市役所でのヒアリングにより尖閣諸島に関する施策に関しては沖縄県と連携することはなくむしろ東京都と連携していることも理解できた。
 第三の領海警備に関しては,調査時の八重山諸島においては約14万㎢の区域を担当する石垣海上本部の海上保安官の定数が621名(陸員37名,船員584名),所属船艇の数が巡視船艇16隻及び監視取締艇1隻であるのに対し,パラオは日本財団の協力もあるとは言え海上警察官40名超及び巡視船艇が5隻であった。パラオ(海上法令執行部)の態勢が八重山諸島(石垣海上保安部)よりも小規模であるのは領土問題の有無が原因と考えられるが,それを差し引いたとしても約63万㎢の警備を行うにはまだまだ不十分だと思われる。なお,パラオでは海上警察官に加えて州の密漁取締官も活動している。
 第四の観光に関しては,八重山諸島もパラオも日本人にとっては気候,歴史,自然,食品といった要素が融合したリゾートと位置付けることができた。また両地域ともに元々台湾からの観光客が多く,かつ,近年は中国からの観光客が激増しているという共通点があることから,その対応の比較により相互に学び合うべき点を見出すこともできた。
 第五の歴史の記憶に関しては,モニュメント(碑や資料館の展示内容など)の内容により八重山諸島の記念/記憶化(memorialization)は①世界平和を志向する一般的なもの,② 日本との一体化を志向するもの,③日本でも沖縄でもない八重山特有のものなどに大別することができた。一方,パラオの記念/記憶化に関しては特にペリリユー島において日本の主導により戦争の記念/記憶化が行われていることから「純粋」な戦争の記念/記憶化のためのツアーを日本人観光客に創出する可能性を見出すことができた。
 第六の開発に関して,島嶼国経済の特徴(狭隘・隔絶・極小性,外国依存体質,公的支出依存体質)及び小林泉(1994)『太平洋島嶼諸国論』による島嶼諸国の開発可能性別分類の八重山諸島への適用可能性を検討した。先進国から途上国への資金フローにおける民間資金の割合がODAの約3倍になっており,特にパラオにおいては日本企業による直接投資への期待が大きくなっている。今後,同様の傾向が八重山諸島においても観察される可能性について検討に値する。
 上記の研究結果の中には検討中のものもあるが,今後は後述する3および4の活動を通じて,更なる精織化を図る予定である。

 


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