南太平洋島嶼地域におけるタパ(樹皮布)の未公表コレクションの調査およびタパ素材植物の樹種と系譜の研究
研究代表者:矢野 健一(立命館大学・文学部)
共同研究者:MATTHEWS, Peter J.(国立民族学博物館・超域フィールド科学研究部)
共同研究者:小野 林太郎(国立民族学博物館・人類文明誌研究部)
共同研究者:福本 繁樹(立命館大学・環太平洋文明研究センター)
【2019年度 共同利用・共同研究実績報告】
研究成果
本研究は、共同研究者の福本茂樹が所蔵している南太平洋島嶼地域(パプア・ニューギニア、ソロモン諸島、フィジー諸島、サモア、トンガ)のタパ(樹皮布)約150点のコレクションを中心とした資料の写真整理・撮影と目録作成を実施し、その成果を公開する。さらに、タパ素材植物のDNA分析を実施し、植物の移動経路を分析することを目的としている。南太平洋島嶼地域のタパの素材となるカジノキなどの植物は、人類の移動によって、南太平洋島嶼地域に接ぎ木などにより移植されたと考えられている。DNA分析によるカジノキの南太平洋島嶼地域への波及は、パプアニューギニアの資料不足がネックとなっている。本コレクションの多くはパプアニューギニアの資料であるため、議論に寄与することができる。
本コレクションに関して、現時点で可能な限り、現地でのタパ製作、素材入手に関する情報を補足する必要があり、2020年2月12日~26日に、パプアニューギニアでの現地調査を福本繁樹が実施した。その現地調査に2019年度琉球大学島嶼地域科学研究所 公募型共同研究の助成を受けた。
調査では、パプア・ニューギニア北部GanjigaのUiaku村でタパの文様調査と製作工程を取材し、さらにMaruaのAirara村に移動し、現地住民の案内で、Marua Station No. 2のさらに奥の密林で野生のタパの木であるKaembobi, Koifi,Bodi三種の原木を採取した。これらは現在はタパ製作に使用されなくなった素材だが、現地住民にタパ製作を依頼し、その工程を取材した。また、パプアニューギニア国立博物館で学芸員Grace Guise- Vele氏の協力を得て、英国植民地時代のWilliam MacGregor未公開コレクションを調査した。
その結果、福本が1978年に同地を調査した時と同様、タパ製作が継続していることが確認できたものの、伝統の変容が以下に述べるように、顕著であった。それが確認できたことが最も大きな成果かもしれない。
(1)1978年には女性だけが製作することになっていた規則が崩れ、男性も製作していることがわかった。タパ技法自体は、ほとんど変化していないが、様々な禁忌や制度が崩れている。
(2)1978年にはタパの素材として現地住民に7種の野生の木が知られていたが、現在は3種の木しか知られていなかった。今回、その3種の野生の木を入手した。現在、その野生の木はタパ製作に利用されているものではなく、栽培種のみを利用している。タパの原材料は年代と共に変化していることが確認できた。現在の材料からのタパ製作の工程を取材した。
(3)タパは氏族ごとに文様が異なる。今回は10種以上の氏族固有のタパを入手し、その文様の意味を確認した。氏族固有のタパは市場に流通することはないので、貴重な成果である。氏族固有のタパの文様にはそれぞれ固有の意味があるが、市場に流通するタパの文様には意味がないことを現地住民から確認できた。
(4)国立博物館の許可を得て130年以上前のWilliam MacGregorの未公開コレクション100点以上を調査した。また、そのタパの断片5点を入手した。このコレクションと福本私蔵の50年前のコレクション、および今回のコレクションの3者を比較すると、それぞれの違いが大きいことがわかる。
本研究に関連して、福本が1970-1980年代に南太平洋島嶼地域を調査した際の約4000点の写真デジタル化およびデータベース化を実施した。これは国立民族学博物館が公募した2019年度「地域研究画像デジタルライブラリ」公募プロジェクト(DiPLAS)の助成を受けて行った。